準備委員会企画 ①

2024年 9月28日 (土) 13:00 – 16:00

 講演・対談 

発達障害の謎に迫る

小柳晴生 先生

 今、心理臨床の世界で最大の懸案は、『発達障害と呼ばれる子どもたち』の著しい増加です。2022年に小中学校の特別支援学級に在籍する子どもは約33万人で、10年間に倍増しています。また、通常学級の8.8%の子どもが、発達障害の疑いとの調査結果も出されました。
 発達障害はとても不思議な現象です。50年前には概念すらなかったのです。原因としては、先天的な脳の機能障害が定説となっていますが、この説では昨今の著しい増加が説明できないし、子どもの1割を超える先天的な障害が見落とされていたとは考えにくいのです。
 私は、発達障害と呼ばれているものは、親子の情緒的なやり取りのずれから生じた『愛着形成不全』とする立場を取っています。親子の情緒がずれるようになった要因として、①大人と子どもの生きる速さの乖離、②テレビスマホなど情報機器の増加により、乳幼児期から電子情報にさらされるようになった、③自然から離れた生活で原初的受信機能(感性)が働かなくなり、子どものメッセージを正確に受け取りにくくなったと考えています。
 この背景には産業革命以来の文明史的な大きな社会変動が関与していると考えています。私たちが成長や発展と信じた価値観や便利さや快適さを追い求める生き方が、自然から遊離し子どもが育ちにくい社会を作ったのです。発達障害とよばれる現象は、医療や心理臨床、保育や育児の領域に留まる問題ではなく、私たちに『生き方の変更』を求めるメッセージと捉えています。
 画家P.ゴーギャンの「私たちはどこから来たのか、私たちは何者なのか、私たちはどこに行こうとしているのか」という言葉が、今ほど切実に感じられる時代はありません。本企画では、子どもや子育てで何が起こっているのか明らかにし、私たちは何をすればいいのかという知恵を結集できればと考えています。ぜひご参加いただき充実した話し合いができることを願っています。


講師紹介

小柳 晴生(おやなぎ はるお)
現在フリー(元・香川大学教育学部教授、保健管理センター所長、放送大学客員教授)

略歴

1950年石川県生まれ。
金沢大学卒業、広島大学大学院修士課程修了、広島大学及び香川大学の保健管理センターで、20数年間学生相談カウンセラーをつとめる。
2001年より香川大学教育学部でカウンセリングなどの講義を担当。
2005年に55才で大学を退職。
瀬戸内海が眺められる山中で、「半隠居生活」に挑戦中。
2006年、日本人間性心理学会学会賞を受賞。

主要著書

三才までの子どものこころ相談室 木立の文庫(2022)
大人が立ちどまらなければ NHK生活人新書 (2005)
ひきこもる小さな哲学者たちへ NHK生活人新書 (2002)